企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

関さんの森を育む会(団体のウェブサイト

大きな門を一歩くぐると大小の草木がそのからだを風にそよがせていた。この緑あふれる素敵な庭で私たちを出迎えてくれたのは「関さんの森を育む会」会長の関美智子さん、運営委員の木下紀喜さん。このお二人にお話を伺った。
育む会の活動場所の多くは、千葉県松戸市のJR新松戸駅から徒歩10分程の場所に位置し、都市部のベッドタウンとして開発が進む中で、貴重な緑地として地元の方に親しまれている。緑あふれ、多くの生き物が集う庭からは、関さんの森に対する強い思いが感じられた。

残したい、父の想いと豊かな自然

「関さんの森を育む会」発足のきっかけは関家に代々受けつがれて来た森にある。関さんのご尊父は、子ども達が自然ともっと親めるよう願いを込め、私有地だった森を「子どもの森」と称して地域に開放していた。関さんはその遺志を継ぎ、森の存続を決意。しかし、駅への近さと1.1haという広さのために生じる莫大な相続税が関さんを悩ませる。
民間事業者への売却は論外、市もこれだけ広大な土地は購入できない。この問題を解決するため、関さんは森の寄贈先を探した。森をこのままの姿で残すという条件で受けてくれる団体は、唯一、埼玉県生態系保護協会だけ。しかし、近隣の住民から、長年親しんできた森が他県に寄付される事に不満の声があがる。関さんは、保護協会と話し、地元の人たちが今までどおり森に関われるようにした。そして、「関さんの森」と名前を改めたこの森の管理のため、十数名の地元有志の方々が集まり、会は発足した。
2007年現在、会員は約200家族。表土作りから始まった活動は徐々にその幅を広げ、植樹、定期的な下草刈りや清掃等、地道で堅実な活動を続けている。12年目を迎える今では、4つのフィールドに活動場所を広げ、更なる緑の保護活動に邁進している。
会長の関さん(右)と運営委員の木下さん(左)。ご尊父の遺志を継ぎ子どもたちが森に親しめる場をつくっている。

小さな森の大きな夢 ~森がまるごとミュージアム~

この地域は市街化区域のため、土地開発と保全活動とのせめぎあいが深刻化している。以前、区画整理により森の一部を道路にする計画が持ち上がり、会では計画に反対する署名活動を行った。多くの署名が集まったにも関わらず、市は計画を実行。関さん達の願いは聞き届けられなかった。現在も新たな道路計画に関さんの森は脅かされている。
「自分が無力だと感じる事はあります。けれど、誰もやらないのなら私がやるしかない。今まで壊してきた自然こそ、私たちに本当に大事なものを与えてくれていたのではないでしょうか」と関さんは語る。フィールドの一つである梅林に掲げられた掲示板には、道路計画の見直しを求める署名用紙が常設されている。
このような状況の中で、育む会では近年、一部のフィールドを生きた博物館「エコミュージアム」として残そうという活動が行われている。森やそこに住む様々な生き物、関さん宅に江戸時代から残る家屋や民具がこのミュージアムの要素。人や動植物を一つの大きな生態系として公開する、新しい発想に満ちた博物館だ。
また、関さんの森は近隣の小学校の学習の場としても活用されている。「学校からの依頼は絶対断りません。子ども達が大人になった時にこの森の自然を思い出してもらいたくて」と、関さんは目を細めて笑う。看護学生の作業体験や、大学研究へのフィールド提供も活動の一つ、若い世代との交流も大切にしている。さらに昨年、世界的に有名な環境問題の研究者であるレスター・ブラウン氏を招き、講演会を実施した。「小さな森にも大きな価値がある」というブラウン氏の言葉通り、関さんの森は多くの人に自然と触れ合うきっかけを与え続けている。
一部のフィールドを「エコミュージアム」として残そうとしている。

森は出会いの広場

「季節ごとに違った花や生き物と出会える事が何よりの楽しみ。これからも生き物の集うこの場所をずっと残していきたい」関さんは活動への意気込みを語る。森で暮らす生き物だけでなく、訪れる人をも豊かに育む関さんの森。今後もその緑は美しく輝き続けるだろう。
活動に参加して-執筆担当:中村 歩 日本女子大学 理学部物質生物科学科10月11日、溜ノ上の森での活動に参加させていただいた。ここでの活動は、育む会から派生した「溜ノ上レディース」の皆さんが行っている。その名の通り主なメンバーは女性。大掛かりな力作業の時には、育む会のナイト達が加勢してくれるそう。この日も2人のナイトが力を貸してくれた。
作業前に説明を受けながら森を見学させてもらった。そこで感じた事は、森と住宅が本当に密接しているんだと言う事。この二つを隔てているのは金網のフェンスのみ。そのため、特に境界付近は管理を怠らないそう。「せっかくの緑でも皆に好かれなきゃ意味がない。」とレディース代表の渋谷さんは語る。
実際の作業では竹林の間伐を行った。いとも容易くやってのける木下さんのお手本を前に悪戦苦闘するも、何とか1本の竹を切り倒す事ができた。竹の倒れてくる迫力に圧倒されてしまったが、ぽっかりと空いた空を見上げると、なんだかすがすがしかった。枝を打ち払い、2mほどに切り分ける。10月だと言うのに汗をかいてしまった。この日の作業は二時間ほど、人数も少なかったため整備できたのはほんの一部、森の管理の大変さを痛感した。
作業後には、おいしいおにぎりときのこ汁をいただき、談笑する場面も。活動を通じて、木下さん、渋谷さんからは森の生態系について様々なお話を聞く事ができた。お二人ともとても自然に詳しく、本当にたくさんの植物の事をご存知で驚いてしまった。お二人をはじめ育む会の方々は、皆さん自然に対しての造詣がとても深く、一人ひとりの方が緑に対して持っている意識の高さを改めて感じた。
取材中、関さんは「最近、自然保護に関心のある人は確かに増えたけれど、実際に協力をする事とは別。」とおっしゃっていた。関さんの森のような場所がもっと街の中にあれば、育む会の方々のように、気持ちを行動に移せる人がもっと増えるのではないだろうか。そのためにも、パイオニア的存在として、関さんの森が、来年もその先も変わらぬ緑を絶やさない事を心から願っている。