企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

盛人の会

 約50万の人口を有する、埼玉県の大規模ベッドタウン川口市。その南部を流れる荒川を望む0.35haの河川敷に「盛人の森」はある。草むらにはコオロギやバッタが潜み、池ではフナやメダカが泳ぐこの豊かな森が、10年前には草木のない裸の土地だったというから驚きである。今回、森づくりを始めた「盛人の会」の現会長である大山和夫さん(以下、大山さん)、森づくりの中心者である田邉泰司さん、ほかメンバーの方々にその魔法のような10年間の軌跡を語っていただいた。

再出発の日―盛人式―

 2001年11月10日、「第1回きらり川口盛人式」が開催され、当時50歳であった川口市民約750人が一堂に会した。この「成人式」ならぬ「盛人式」は、「節目の年である50を迎える市民が仲間と集い、自らの過去を振り返ったり、今後を見つめ直したりすることのできる良い機会になれば」、と川口市が開催したものであり、現在も2年に1度のペースで開催されている。盛人式に参加したメンバーは、高度成長期の恩恵を受けてきた半面、美しい自然を破壊してきた事実を反省し、“自分たちの生まれ育った川口市に、何かできることはないか”と考えた。そこで、記念事業として計画されたのが、都市の中に森を創り出すこと、すなわち、盛人の森づくりであった。
木々が青々と茂る、都市の中の盛人の森

「30年後の森を!」

 翌2002年、川口市と国土交通省から、河川敷にある土地の使用許可を得て、森づくりがスタートした。当初は、資金繰りが大変厳しく、苗木を数本買う程度のことしかできなかったという。しかし、ここで盛人の知恵が活きる。まず、土を入れる作業。元々荒れた土地であったため、森をつくるために大量の土が必要であったが、そのお金がない。そこで、「土、無料で受け入れます」という看板を森の周りに貼りだしてみた。すると、残土の持ち込みが殺到し、なんとダンプカー約500台分の土を集めることができた。次に、造成の作業。5名のメンバーがこの活動のために油圧ショベルの免許を取得し、自然に近い地形や小山をつくった。造成をする中で、たまたま穴になったところには、メンバーの提案で川口固有の魚の住める池をつくることとなった。そして、専門家に話を聞きながら、川口に昔からある草や木を植えた。今では、木々はたくましく生い茂り、夏場に人の涼める木陰をつくってくれている。
 盛人の森には「30年後の森を!」というスローガンが掲げられている。森は一朝一夕に完成するものではない。長い時間をかけて大切に育てていきたい、というのが盛人の会の方針である。メンバーは、その志の下で約10年の歳月をかけ、市内にある小学校の理科の先生から「都市の中でこんなに昆虫がいる場は他にない」と太鼓判を押されるほど、多くの生物が息づき、四季に応じた変化の楽しめる森をつくってきた。現在でも、毎月周辺の清掃や草刈り、給水など、最小限の手入れを行い、森の成長を温かく見守っている。次の10年、そしてまた次の10年と、森はメンバーの想いを繋いで育ちゆくことだろう。
作業後の昼食は、「人づくり」の場にもなっている

森づくりから人づくりへ

 「森づくりをしていて、1番よかったなと思うことは?」という質問に、大山さんは自信を持って「いろいろな人と知り合えたことです」と答えてくれた。50という年齢を迎え、改めて自分の「死」を意識し、これからどう生きるか、どう周りと関わっていくかを真剣に考え始めたときに、盛人式の開催があり、多くの盛人と出会い、森づくりに携わることになった。森づくりに関しては全くの素人であったメンバーだが、それぞれが造成・ゼネコン・排水・運送など、ありとあらゆるスキルを持ったその道のプロであった。利害関係のない世界で、1人1人が思う存分に自分の力を生かす場所。それが盛人の森づくりであった。
 大山さんは活動について、「森づくりをする中で人づくりをしている」と言われた。人と人とのつながりは作ろうと思って作れるものではない。「森」というフィールドで、共に悩み、試行錯誤しながら活動をしていくことでおのずと、お互いを尊敬し、信頼しあうことのできる強い絆が生まれるのであろう。汗を流しながらも、笑顔で活動をするメンバーの姿を見て、そう強く実感した。
活動に参加して-執筆担当:松岡美由紀(創価大学経済学部経済学科) 10月。大通りを挟んだ向こう側には住宅やビルが立ち並び、一見すると普通の都市公園のようにも見えるこの盛人の森にも、ちゃんと収穫のシーズンが到来していた。大粒の栗や小粒の山栗、私も生まれて初めてみる胡桃の実まで。笑顔のメンバーたちからは、「柿はいつ実をつけるかな。」「次は桃もいいわね。」なんていう声も聞こえてきて、いくつになっても弛まず挑戦を続ける姿に強く感化された。秋の味覚をたっぷり収穫すると、今度は炊き出し部隊と植林部隊にわかれての作業。5本のシロダモを森に迎え入れた頃には、テーブルに温かな食事が並んでいた。
   四季と共に移ろう森と、変わることのないメンバーの森に対する思い。こうして1年また1年と、この森は着実に成長していくのだろう。夏になれば子どもたちが虫採りに興じ、秋になれば大人たちが池のほとりで静かに月見をする。盛人の森が、そんな市民の憩いの場となる姿が目に浮かぶ。私もまた、彼らのように、人と人とを繋ぐかけがえのない森を未来へ残しゆく1人になりたいと思う。「よし、次回は魚釣り大会だ!」盛人たちの歓声が、森に響く。
学生レポーターの松岡