企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

協働参加型めぐりの森づくり推進会議「自然ふれあい楽校」グループ

 神奈川県逗子市JR横須賀線逗子駅からバスに乗ること20分。終点の湘南国際村センター前で下車すると、相模湾と緑地の織り成す雄大な景色が広がっている。この緑地「めぐりの森」を中心に活動しているのが『協働参加型めぐりの森づくり推進会議「自然ふれあい楽校」グループ』(以下、「自然ふれあい楽校」)だ。今回は代表の野崎章子さんにお話を伺った。

自分たちの地域を、自分たちの手で

 この緑地は元々企業の所有地だった。ゴルフ場計画があったものの、断念され、何十年と放置されていた。それが2010年に神奈川県に無償譲渡されることになり、県からこの緑地を利用した事業の募集があった。以前から地域の自然環境に興味を抱いていた野崎さんは真っ先にその募集に気が付いたという。
 当時野崎さんが事務局長を務めていた「おおくすエコミュージアムの会」をはじめとする地元の環境団体が協力し、整備や環境教育といった活動案を提案。それが県に認められ、2010年4月、県有地「めぐりの森」の誕生とともに、「協働参加型めぐりの森づくり推進会議」(*)の1グループとして「自然ふれあい楽校」が発足した。
三浦半島最高峰の大楠山の周りに112haの森が広がっている

人が活用できるめぐりの森へ

 長年放置されていためぐりの森は開発途上の荒れた草地が多く、残っていた樹林も暗いうっそうとした森になっていた。
 こうしためぐりの森の回復を図ろうと、「自然ふれあい楽校」は毎年晩秋から冬にかけて、整備活動に取り組んでいる。中でも大切にしているのは、落葉広葉樹の森を目指すことだ。落葉樹は秋になると葉を落とし、地表に光が届く。落ち葉は良い堆肥となり、生物のすみかを提供し、生物多様性の向上につながるからだ。
 昨年は落葉樹林の下草刈りを行った。また、近隣の小学校と、落葉樹であるクリの植樹も始めた。少しずつではあるが、森の植生の様子に変化が生じてきたという。
 「めぐりの森」の中のススキとカヤの原っぱでは、近年、古くからの日本家屋の価値が見直されていることを受けて、茅葺屋根に使う良質なカヤの育成に取り組んでいる。昨年は実際に横浜市西区の民家に利用してもらうことができたそうだ。
 昔から人々は里山に丹念に手を入れて管理することで、人々の生活に必要な食材や資源を得てきた。「自然ふれあい楽校」はめぐりの森を人々が利用できる里山にしようと、保全活動に励んでいる。

学びと憩いのめぐりの森

 めぐりの森に、地元だけでなく横浜や東京からも多くの親子連れが集う日がある。7月のサマースクールと11月のオータムフェスタだ。2012年で3年目を迎えたこのイベントでは、数日間で複数の自然体験プログラムが実施される。
 サマースクールでは森・小川・原っぱの観察会や、専門家を交えた森づくりに関するディスカッションなど、自然を学ぶプログラムが開かれている。オータムフェスタでは自然の中での朗読や音楽会、クラフトづくりなど、遊びの要素が加わったプログラムが行われる。
 最初は自然に不慣れな子どもたちだが、イベントを通し自然の面白さに目覚めるようで、参加者にはリピーターも多い。はしゃぐ子どもたちを注意していた保護者も、自然の中で自由に遊ばせることの大切さに気付き、おおらかな眼差しに変わっていくという。
 2012年からはめぐりの森の植生や生物を月に一度調査する専門的なプログラム「自然ふれあい楽級」を始めた。活動に応募した7人の子どもたちは、生物に詳しく、虫とりの腕前も大人顔負けだ。野崎さんは「大きくなったら一緒に活動してくれるかな」と期待を寄せている。
草の中をかき分けて昆虫を追いかける子どもたちとメンバーの皆さん

自然とふれあい、人を育てる

 子どもと接するときは「ルールではなく、気持ち」を伝えると語る野崎さん。「危ない」「走っちゃダメ」など禁止用語は使わない。自然の中でしてよいこと、よくないことの区別は、多少の怪我をしながら実際に経験しないと分からないことだ。それよりも、自分たちが自然を大切にする気持ちを行動で示している。例えば、小川の生物の調査では、採取した生物を子どもたちと一緒に川に戻す。その際に、生物を川に戻す理由を説明すると、子どもたちは納得し、再び森に来たときには生物をきちんともとの位置に戻すよう周囲に働きかけるそうだ。自然を大切に思う気持ちに気づき、だんだんと自然の中でのふるまい方を学んでいく様子がうかがえる。
 自然とのふれあいをきっかけに、自然環境について考えられる大人になってほしい。そしていつかめぐりの森に帰ってきてくれたら。「自然ふれあい楽校」はそんな願いを体現した、人材育成の場なのである。

*協働参加型めぐりの森づくり推進会議…行政・企業・市民が一体となってめぐりの森づくりを推進する組織。「自然ふれあい楽校」グループや「混植・密植植樹推進」グループなど、4つのグループから構成されている。
活動に参加して-執筆担当:笹野百花(東京大学教養学部理科二類) 私が「自然ふれあい楽級」に参加したのは、2012年8月。快晴でとても暑い日だったが、森の中には涼やかな風が吹いていた。今回は森の中にしかけておいたトラップに集まった昆虫の調査を行った。驚いたのは、子どもたちがしっかり調査に貢献していたことだ。虫を素早く捕まえ名前や特徴を記録するなど、調査活動に夢中のようだった。今回ガイドを務めて下さったメンバーの渡邊真也さんの詳しい昆虫の解説に子どもも大人も感心しながら、一歩一歩森の奥へと足を進めていった。活動の中で子どもたちが自然ふれあい楽校のメンバーの皆さんと楽しげに言葉を交わす光景を見て、自然には人と人を結びつける力があると感じた。めぐりの森で育った子どもたちが、大人になってこの地の大切さを伝える営みを繋いでくれることを期待したい。
代表の野崎さんと、写真左学生レポーターの笹野