企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

特定非営利活動法人里豊夢わかさ

 福井県若狭町能登野(のとの)。JR小浜線十村(とむら)駅から車で5~6分の里山に、『特定非営利活動法人里豊夢(りほうむ)わかさ』(以下、里豊夢わかさ)の活動地である「のとのの里」はある。里豊夢わかさは、里地里山の環境整備をするとともに、子どもたちに自然と関わる機会を提供し、自然を大切にする心を育てることを目的として設立された団体である。今回、里豊夢わかさの理事長前田勉(まえだつとむ)さんにお話しを伺った。

『緑豊かで心安らぐ里山づくり』

 2007年、約3haの里地里山を「のとのの里」と名付け、里豊夢わかさの活動は始まった。地元の企業などの協力も得て、足を踏み入れることも難しいほど荒れていた土地の整備が進み、今では炭焼き小屋やピザ窯用小屋、いこいの広場や芝生広場などがある居心地の良い環境に生まれ変わった。現在は、見晴らし台ステージ上の小屋づくりが進行中で、今年中の完成を目指している。
 また、団体発足の翌年から毎年秋になるとミニ植樹祭を実施し、クヌギやコナラなどこれまでにおよそ300本を植え、心安らぐ緑豊かな森づくりを継続して行ってきた。植栽地の下草刈りから倒木や枯木の処理なども行いながら、植樹ゾーンを年々広げている。
 里豊夢わかさには、専門家や講習を受けたスタッフはいないが、どのスタッフも自然と関わった豊かな経験を持っている。「それが一番大きな力」だと前田さんは力強く語った。
里山の入り口にある「いこいの広場」。炭焼き小屋やピザ窯用小屋が並ぶ

『ふれて学ぶ里山自然体験』

 「のとのの里」の整備がある程度進んだところで、2009年から本格的に子どもたちが里山の自然にふれる『里山自然体験活動』を年に8~9回実施してきた。里豊夢わかさが最も力を入れて企画している活動で、四季に合わせた魅力的な活動内容を子どもたちは心待ちにしている。春には、さつま芋の苗を植え、里山に設置する鳥の巣箱を手作り。夏には、原始の火起こし体験や竹を使った昔のおもちゃ作り、里山をトレッキングしながらの生き物観察。秋には、春に植えたさつま芋の収穫や雑木の伐採体験、森の探検、そしてミニ植樹祭。冬には、カンジキを着用しての探検や、竹で昔のソリを作って冬遊びを楽しむ。
 その他にも、里山の雑木やマツボックリやドングリなどを使ったネイチャークラフトを行っている。自然の素材を前に子どもたちの想像力は無限に広がり、すぐにモノづくりに没頭する。完成すると、それぞれ自分の作品を手に満足気な顔。子どもたちの宝物がまた一つ増える。
 体験活動日のお昼には、ピザやパンを手作りして窯で焼いて食べる。生地をこねるところから、トッピングの配置まで、子どもたちは真剣にそして楽しみながら行う。豊かな自然に囲まれながら、自分で作ったものを友達や家族と一緒に食べるという体験を通して、子どもたちに、食事に対する感謝の心を持ち、食べ物の好き嫌いをなくしてもらうこともねらいである。
個性豊かに仕上がったネイチャークラフト作品

『「子ども文化」の復活を目指して』

 「いつからか、学校では人と自然の接点を遠ざける様な教育が行われるようになってしまった」と前田さんは、自らの教員時代を振り返り残念そうに話す。自然にふれて自然から学んだり、自然の恩恵を受けたり、五感を使って学ぶことが少なくなっているのを疑問に思った前田さんは、退職後に里豊夢わかさを立ち上げた。現代の子どもたちは異常なストレスを抱えていると前田さんは感じ、そのストレスの発散のためには「自然の力=癒し」が重要だと考え、子どもたちに「自然の力」を知って欲しいと願っている。
 そして、里豊夢わかさの活動のねらいとして「子ども文化」の復活がある。自然と関わりながらのモノづくりを含む、昔から伝わってきた子どもの遊び文化を、前田さんは「子ども文化」と呼んでいる。「昔は、遊び道具を年上の子が作るのを見て、年下の子が見様見真似で作る姿や、年上の子が年下の子の面倒を見るのが当たり前の光景だった。できればガキ大将の復活を…」と前田さんは言う。『里山自然体験活動』では、里豊夢わかさのスタッフだけではなく、参加者の子どもたちの親も含めた大人たち皆が、基本的に子どもたちを見守る体勢でいる。例えば、ネイチャークラフトを行う時、大人たちは子どもたちの感性を邪魔しないよう手を貸さずに見守る。「上手に作ることが大事なのではなく、自分で作るということが大切なのであり、たとえ失敗しても、失敗から学べば良い」というのが前田さんのポリシーなのだ。カリキュラム通りの公教育ではなかなか手が回らない、子どもたちの個性を尊重し大切にしている。
 自然に触れる楽しさや子ども同士のコミュニケーションによって得た経験は、子どもたちの豊かな心を育ててくれる。里豊夢わかさの活動によって、貴重な経験をできる子どもたちが、今後さらに増えることを期待したい。
活動に参加して-執筆担当:河野 りさ(青山学院大学) 9月15日、『里山自然体験活動』に参加した。この日のプログラムは、雑木の伐採、薪づくり、ピザ教室、ネイチャークラフト。台風が近づき時折雨が降る中での活動にも関わらず、子どもたちは無邪気に「のとのの里」をかけまわる。「見て!カエル!触ってみる?」、思わず頷くと参加者の女の子が私の手に小さなカエルを乗せてくれた。私も小学生くらいの時はカエルや昆虫を見つけて捕まえるのが楽しくて仕方がなかったと、なんだかひどく懐かしい気持ちになった。
 そして、参加者の中には『里山自然体験活動』を一家のメインイベントにしている家族もいた。子どもたちが楽しむだけではなく、親も一緒に楽しみながら子どもたちを温かく見守っている光景が見られるのは、里豊夢わかさのポリシーが参加者にしっかり伝わっていることの表れである。
 里豊夢わかさの活動に参加して、「自然の力」を知り、貴重な体験ができたことを嬉しく思うと同時に、子どもたちの楽しそうな笑顔とそれを見守る親や里豊夢わかさのスタッフの方々の嬉しそうな顔を見て、子どもたちと自然との接点は決して無くしてはならないと強く思った。
取材中のレポーター(中央)と理事長の前田さん(右)