企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

やす緑のひろば

 滋賀県のシンボルである琵琶湖に面し、「近江富士」とも呼ばれる三上山(みかみやま)、野洲川を初めとする複数の河川、など豊かな自然を有する街、野洲市。自然豊かでありながら、京都まで電車で30分とアクセスの良さから、住宅地としての人気も近年急速に高まっているこの街で、野洲市平野部に残された貴重な緑を守るために、やす緑のひろば(以下、「緑のひろば」)は活動している。今回、代表の東郷尚(とうごうたかし)さん、事務局長の熊本正幸(くまもとまさゆき)さんらにお話をうかがった。

森を貫く一本道

 緑のひろばは、2007年に市が策定した「野洲市環境基本計画」を、市・市民・事業者が協働して推進する協議体の1部会、市内平野部の緑化を推進する「緑の推進委員会」を母体として、広く市民参加を募るため、2011年に発足した。平野部の緑化のなかでも、野洲市市三宅(いちみやけ)地区の野洲川沿いに広がる森・河辺林(かへんりん)は自然植生に恵まれ、市街地にも近く、ぜひこの森を残したいとの思いで整備活動を続けている。
 かつて、いたるところで河辺林は存在していたが、河川整備などが原因で、河辺林は減ってきてしまっていた。とは言え、活動を開始した頃は、「河辺林を守ると言っても、どこから手をつければいいかわからなかった」、と語る東郷さん。当時の河辺林は、竹が繁茂し、ゴミも捨てられていて、とても人が入れるような森ではなかった。
 そんな人が寄り付かなくなってしまった河辺林を変えるために、東郷さんらがまず初めに取り組んだことは、かつて堤防として使われていた場所を通れるようにして、河辺林を貫く一本道を作ることだった。一本道が散策路となって人が出入りできれば、ゴミも捨てづらくなる。そして、この河辺林を人々が自然を感じられる場所として気軽に出入りできる場所にしたい。そんな思いから完成した一本道の長さは約500メートル。「一本道が完成したときは、活動してきた中で最も印象に残っていることの一つ」と熊本さんは語る。取材で河辺林を訪れた際にも、一本道を散歩している方とすれ違い、一本道が河辺林へ人を呼び込む効果を確かめることができた。
一本道を歩く緑のひろばのメンバーとレポーター

河辺林がもたらす世代間の交流

 一本道の存在は、河辺林に様々な人を呼び込み、緑のひろばの活動の幅を広げることにも繋がった。人の出入りが容易になったことで、河辺林に貴重な野鳥や植物が生息していることも確認された。自然植生森ということで、滋賀県立大学の学生が、月に1度、動植物や昆虫の生態調査に訪れている。これまで学生らによって河辺林で確認された野鳥は32種、植物は85種。学生たちによって、市民のみなさんへの調査結果の報告会も開かれた。こうした学生による活動が緑のひろばが活動する場所で実施されることは、「緑のひろばのユニークな所ではないか」と熊本さん。
 こんなこともあった。竹を切って拓けた広場の一画に、カブトムシの幼虫がたくさん生息していることをメンバーが偶然発見し、この発見が地域の小学生を招いたカブトムシの幼虫観察会につながったのだ。カブトムシの幼虫とふれあう小学生の様々な表情を見ると、「緑のひろばの活動でこのように子どもたちと接する機会が出来て嬉しく、活動へのやりがいを感じることができる」と、小学生から届いたお礼の手紙を示しながら熊本さんは語る。「小さい頃から森に親しんでいれば、大人になっても自然を大事にできる。」そんな思いのもと、緑のひろばは、河辺林で地域の子どもを中心とした新たな自然体験イベントを構想中だ。
緑豊かな河辺林には貴重な野鳥も生息する

作るのではなく残したい

 緑のひろばが理想とする森の自然は、公園のような、人の手によって作られる自然ではない。できるだけ手を入れず、ゴミがなく、人を呼び込むための道がある。そんな森を目指している。そのため彼らは河辺林を公園のようにきれいに整備するつもりも、外から植物の苗木を持ってきて植樹するつもりもない。河辺林に残された緑を育て、河辺林の環境を守りたい、と考えている。彼らは森を作りたいのではなく、残したいのだ。河辺林には蚊などの虫も多いが、自然の森に虫がいるのは当たり前だ。虫の存在も含めて、ありのままの自然を感じられる森を次の世代に残したい。その思いは、緑のひろばのメンバーそれぞれに確かに共有されている。熊本さんは語る。「一度見に来てくれたら、森の良さがわかる。レジャー感覚でいいから、気軽に足を運んでほしい。」
 河辺林の環境を守るためには、急速に成長する竹の伐採など、地道な作業がたくさんある。けれども、その日の作業を終えた達成感を胸に、次回はこんなことができないか、とメンバー同士が語らう様子は、見るからに楽しそうだ。森を心から楽しむ。それが緑のひろばの活動を続けるエネルギーなのだ。これからも緑のひろばの活動によって、河辺林がより自然豊かで、多くの人に愛される森となることを願っている。
活動に参加して-執筆担当:山本 洋平(青山学院大学) ノコギリを片手に森を進み、伸びてしまった竹を切っていく。なかなか切れない太い竹に悪戦苦闘しつつも、一本切り倒すたびに達成感が生まれていった。時に草木を掻き分けながら進んでいったのだが、そんな時でも緑のひろばのメンバーの足取りが軽く見えた。河辺林での作業を心から楽しんでいるからなのだろう。いたるところに蚊がたくさんいるので、顔にはネットを被り、長袖長ズボンで活動に参加したにも関わらず、わずかな隙間から数か所刺されてしまった。しかし、普段蚊を嫌がってしまう私でも、刺されてもなお、河辺林は何故か落ち着くことのできる場所になっていた。作業中に涼しさを感じさせてくれる河辺林の木陰、木々の葉の鮮やかな緑色、緑のひろばが作った竹のベンチなど、河辺林で見える景色すべてに、自然の森を感じてほしい、という緑のひろばのメンバーの意思を感じた。また河辺林の景色を見て、緑のひろばの皆さんの思いを感じてみたい。
活動参加後、緑のひろばの皆さんと。手前中央左がレポーター。