企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

ナシオン創造の森育成会

 兵庫県西宮市。ニュータウンが広がる西宮名塩駅に降り立つと、目の前には高速道路からも見える街の名物斜行エレベーターと地中海を思わせる白亜の住宅が広がる。
 そんな美しい住宅街のすぐ隣に広がるのが「ナシオン創造の森」である。私は木の実を拾いながら、アベマキやクリが生えている道を夢中になって進んでいった。すると、目の前には丁寧に整備されたヒノキ林が広がった。明るい林床にはスギ・ヒノキの実生も見られ、多くの生き物がこの地で息づいていることを感じさせる森である。この「ナシオン創造の森」で森を育て、森に学び、森を楽しむ活動をしている「ナシオン創造の森育成会」(以下、育成会)の方々からお話を伺った。

「森のためになっていない!」

 西宮名塩(にしのみやなじお)ニュータウンは1978年から開発が始まり、1991年から住民の入居が始まった新しい街である。しかし、住宅地には適さない、高低差のある山林はそのまま残された。そこで開発を行なった当時の都市公団と東山台自治会は「里山ミニ体験会」を行なった。
 しかし、「里山ミニ体験会」ではレクリエーションが中心であり、「人が楽しんでいるだけで、森のためになっていないのではないか」と、この活動に対して疑問を感じた人がいた。ナシオン創造の森育成会 理事長の小西一郎さん(以下、小西さん)である。小西さんを中心に約35名が集まり、2007年に地元住民だけからなるボランティア団体、「ナシオン創造の森育成会」が設立された。
住宅のすぐ近くに広がるナシオン創造の森

「育成会」で育てたいもの

 育成会という名前は3つのものを育てることを目指してこの名がつけられた。一つ目は森を育てることだ。
 ナシオン創造の森は東京ドーム約3個分という広大な山林であり、地形も複雑である。そのため、育成会は土地の水分量や木の種類を調査し、山林を17の森林にわけた。そして、年ごとにどの林分をどのように整備を行うのかを示す「30年計画」を立て、毎月2回の森林整備と月に一度の植生調査などを行なっている。小分けに整備を行うことで達成感を得る事ができ、続けようというやる気もおこるという。「半日の整備をし終わった後に降り注ぐ日の光が気持ちいいんですよ」と、小西さんは森林整備によって得られるやりがいを語る。
 二つ目は西宮名塩の生活・文化を維持し、育てることである。
 育成会が行なった森の植生調査から興味深いことが分かった。皆伐を行うと地元の伝統工芸品である「名塩和紙」の原料であるガンピの芽が生えてきたのだ。まだデータを集めている段階ではあるが、将来的には名塩和紙の発展に貢献していきたいと小西さんは語る。ナシオン創造の森を、人と森とが相互に関係しあった姿である里山として維持することがこの地域の本来の生活・文化を反映したものになるとの考えからである。
17の森林に分けたナシオン創造の森の地図と小西会長

育成会が育てようとしている三つ目のものは、「人」である。

 「森の勉強をしなければ真に森のためになる活動をすることはできない」と小西さんは語る。育成会は会員を対象にした樹木観察・勉強する会を開催するだけではなく、地域の住民に対しても森について学ぶイベントを企画している。また、地域の小学校・中学校とも連携し、緑を育てることのできる子どもの育成を目指している。2012年の2月からは、小学3年生の体験学習に保護者の参加を促すようにした。冬の寒さの中でも生き続ける生き物、そして森の中にある「不思議」に対して、子どもたちだけではなく大人も感動している姿が見られたという。
 「森の中で見つけた『不思議』をきっかけに家庭での話が盛り上がり、自然環境に対する関心が広まって行ったら」と小西さんは語る。

共に生きる

 「今はまだ、住民にとって森はレクリエーションの場であるとの意識があります。でも、森は環境浄化の場であるとの意識を広めていきたいんです」。小西さんは今の活動を続けるにあたって感じることをこのように語る。育成会の方々はレクリエーションの森を作りたいのではない。人と森とが良い相互関係を築いている里山を再構築したいのだ。育成会は、森を育て、森に学ぶ。森に対する謙虚な姿勢を忘れずに活動を続けている。
活動に参加して-執筆担当:市木祥子(お茶の水女子大学理学部生物学科) 私は10月上旬、育成会のヒノキの間伐作業に参加させていただいた。私とほぼ同じ、20数年という月日を生きてきた一本の木を倒す際、私は小西さんに勧められて一本梯子に挑戦した。一本梯子を使って木の上の方にロープを結ぶ役に、初めはびくびくしていた。しかし、実際にヒノキと梯子に身体を預けて木の上の方まで登ってみると…不思議と安心感があった。またもう一度、あの気持を味わいたい。基本に忠実に伐採を行ない、伐採後の後処理も丁寧に行ったため、一本の伐採に約1時間もかかったが、それだけ木・森が生きている様子を体感できた。間伐の際に得られた木の欠片は私の宝物である。 計画的に活動を進め、勉強熱心で森思いの会員の方々を、これからも私は応援していきたい。このナシオン創造の森と西宮名塩に住む方々との相互作用から、真の里山が復活する将来が楽しみである。このような方々に出会えた全てのめぐり合わせに感謝の気持ちでいっぱいだ。
写真右、小西会長から説明を受ける学生レポーターの市木