企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

府中市立南白糸台小学校「せせらぎ広場」運営協議会

 「自分が生まれ育った場所が、かつてどのような場所であったか知っていますか?」
このように問われたとき、多くの人々は答えることが出来ないのではないだろうかと思う。私自身も、神戸市の住宅街で生まれ育っており、昔はどんな場所であったか深く考えたことはなかった。今回、地域の自然保護と、かつての自然環境の復元を行い、子どもたちが自分たちの地元での体験を通して自然活動の楽しさや意義を知り、地域を継承していく活動を行っている団体を訪問した。

子どもたちに地域を伝える

 京王線武蔵野台駅から住宅街を通り抜けて10分の場所にある東京都府中市立南白糸台小学校。この小学校の子どもたちと活動を行っているのが、「南白糸台小学校『せせらぎ広場』運営協議会」(以下、せせらぎ広場)である。この団体が発足するきっかけは2003年の学校創立30周年記念事業であった。この事業において、同校の卒業生として初めてのPTA会長を務めていた大間努さんほか10名で団体を立ち上げた。大間さんや団体のメンバーが小学生だった約30年前は、学校の近くを流れる多摩川やその支流などでよく遊んでいたそうだ。また、学校周辺にはワサビ田や水路、池、稲田が存在していた。しかし、近年は宅地開発の影響により、かつてあった自然環境が無くなってしまった。もう1度自分が子どもの頃のような風景を取り戻し、地域の子どもたちにかつての自然の恩恵を体験してもらいたいと思い活動を開始した。設立当時より、せせらぎ広場の活動には小学校との連携が不可欠であると考えており、校長先生に活動の趣旨を伝え、協力を得て来た。例えば、団体が活動を行う際には、学校を通して活動内容を子どもたちに連絡してもらったり、団体が学校の活動のサポートを行ったりしている。団体設立から10年が経過し、校長先生も3人入れ替わっているが、団体と小学校の関係性は変わっていない。

かつての風景の再現

 せせらぎ広場では、設立当時より全ての作業を自分たちの手で行うようにしている。このように心がけている理由は「自分たちで行うことによってこの場所への愛着がより深くなる」と大間さんは言う。せせらぎ広場は、子どもたちにかつての自然を体験してもらうために小学校のグラウンドの片隅に多摩川の生き物や昔の地形を模したビオトープを造成した。ビオトープを小学校内に造成することも容易な作業ではなかったという。実際に団体のメンバーで設計図を作り上げ、造成に取り掛かるも水の循環が行われないという問題が生じた。この問題が生じた際にはせせらぎ広場のメンバーの伝手をたどり、土木関係の仕事を行っている小学校の卒業生が無償で整備を行ってくれた。このように造成にあたりいろいろな問題が生じたがその都度、地域住民の方の協力を得て1つ1つ問題を解決していった。そして造成から1年3ヶ月後の2005年にビオトープが完成した。

ビオトープでの活動

 造成されたビオトープは小学校の授業の一環で使用されている。1、2年生が「虫探し」、4年生が「わさび作り」、5年生が「稲つくり」を年間7~8時間行っている。小学校の授業においても、せせらぎ広場のメンバーが先生の手伝いを行う。5年生の「稲つくり」では稲を植える作業から脱穀し精米にするまでの作業を地元の農家の方が指導にあたり子どもたちが実施する。この地元の農家の方を学校に紹介したのもせせらぎ広場である。せせらぎ広場のメンバーは、「稲を収穫する際の達成感や夏の暑い時期の草刈りの苦労など、全てを経験することで、子どもたちの自然に対する意識も変化していく」と言っていた。
小学校の敷地内にあるビオトープ

多摩川との繋がり

 せせらぎ広場はビオトープの活動以外にも多摩川やその周辺地域の自然に子どもたちが触れ合う機会を月に1度のペースで設けている。その1つが「水路の生き物しらべ」である。今回の活動場所は多摩川と矢川からの水が合流する「ママ下」と呼ばれる場所で行われた。この場所は参加した子どもたちの保護者の方も知らなかった場所らしく、大間さんは「子どもたちにこのような場所をもっと多く知ってもらいたい」と言っていた。矢川では、川に生息する魚や湧水に生息する生き物を観察する。参加した子どもたちは川の中に入り、珍しい生き物を捕まえたり、捕まえた生き物の大きさを競いあったりするなどとても満足している様子であった。また、観察以外に「投網体験」も行われ、せせらぎ広場の知り合いの地元の川漁師の方を呼んで、小学生に指導を行っていた。
水路で生き物しらべをする小学生

思い出が地域を残す

 学校の授業や様々な課外活動を通して、子どもたちに意識の変化があったようだ。小学校を卒業した生徒たちが中学生や高校生になっても、時々学校のビオトープを見に来たり、課外活動に積極的に参加したりしている。ある中学生は学校の課題研究を多摩川の生態系について行ったらしい。このようにせせらぎ広場の活動を通して、子どもたちの地域や自然環境に対する意識が少しずつ変化しているようだ。また、「この学校の生徒たちは自然環境に触れ合う機会が多いため健やかに育っている子が多いような気がする。」と南白糸台小学校の校長先生は仰っており、子どもたちの成長にも一役買っているようだ。
「現在は小学校の学区内での活動がメインだが、今後は学区外の人たちにも広めていきたい」と大間さんは話している。この活動を通して、自然体験を行う子どもたちが増えることを楽しみにしている。
活動に参加して-執筆担当:安部 雄大(東京大学大学院新領域創成科学研究科) 南白糸台小学校に訪問した時に見た、敷地内の稲田や水路、池・・・。私自身は神戸の住宅街で育ったため、恥ずかしながら小学校の時にこうした稲田は見たことがなかった。そのため、初めてその風景を見たときは田舎の田園地帯に来たかのような風景で驚いた。
 現在、温暖化や自然破壊など地球環境の悪化が深刻化し、環境問題への対応が人類の生存と繁栄にとって緊急かつ重要な課題となっている。持続可能な社会の構築には、21世紀を担う子どもたちへの環境教育は極めて重要な意義を有している。しかし、多くの小学校では立地の関係で自然と触れ合う機会は少なく、どうしても自然に対する意識が低くなってしまっていると思われる。このような状況において、今回訪問した団体では、実際に自然に触れ合う活動を行っている。この活動こそが真の環境教育のスタイルではないかと感じた。また、この活動は学校の先生以外にも地域の人々など多くの人々の協力で行われており、子どもたちを地域全体で育てている印象を受けた。自分は現在東京に住んでいるが、いずれ地元の神戸でこのような活動を行うことが出来ればと思っている。
生き物さがしに参加するレポーター