企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

南丘雑木林を愛する会

 日野市は東京都の多摩地域南部にある。新宿駅から西方に向かう中央線に乗って30分も揺られれば、「東京」の新たな一面が見られる。日野市は、南部に多摩丘陵が連なっており、丘陵の地形を生かした公園が多くある。そのうちの1つに市立南平丘陵公園がある。ここを活動場所としているのが「南丘(なんきゅう)雑木林を愛する会」(以下、南丘)だ。今回は南丘の事務局スタッフである笹木延吉さんにお話を伺った。

守られた緑

 南平丘陵公園は多摩丘陵の一角にあり、公園ができるまでは雑木林がその場所を占めていた。日野はその昔東京の米蔵であったことから、周辺の農家が生活のために雑木林を必要とし、管理していた。しかし、宅地化の波に押される形で農家や地主は雑木林を手放さざるを得なくなっていったという。
 「緑を残すためには公有化しか道はない」当時の日野市市長は財政危機の問題も抱えながら、方策を工夫しつつ緑の保全に努めた。南平丘陵公園も市有化により宅地化を免れ守られた日野の緑の1つである。笹木さんは元日野市職員であり、南平丘陵公園の設計もされた方だ。当初、落ち葉かきは元地主さんの手によってされていたが、そのほかは市の手が行き届いていなかったという。当時から市職員として日野市全体の環境に関わってきた笹木さんは、「雑木林をなんとかしなくてはいけない、それにはボランティアを育成して団体をつくるのが一番良いのではないか」との考えに至った。そして、退職後にその夢を叶え、設立されたのが南丘である。以来、南丘は主に南平丘陵公園の雑木林の手入れをしている。数年前からは植生の調査も始め、樹木は90種類、植物は104種類を確認、単なる手入れに留まらない活動も行っている。
南平丘陵公園の散策路の途中

ボランティア経験者が多い

 会員は全員、日野市の雑木林ボランティア講座の卒業生或いは受講中の方々である。長年続くこの講座を通じて市内で活動するいくつもの団体が生まれており、南丘は第1期卒業生を主なメンバーとする団体だ。会員のほとんどは南丘以外の団体にも属している。交流も活発で、他団体が管理する雑木林や個人の所有する山等に応援として出向くこともよくあるという。
 南丘には活動経験の長い会員の方が多い。活動では、皆が集まるのは初めに班分けと班ごとの作業分担がされる時のみで、後は各班のなかで基本的には各々で、時に教えられながら作業は滞りなく進めていくことができるそうだ。会員の中にはボランティアグループの指導者資格を取得する方や、日野市内の他団体の指導、卒業生として雑木林ボランティア講座で教える人も出てきている。南丘ではこのように指導者の育成を行いたいという方針もあり、団体として資格取得のための費用を負担する形で後押ししている。技術などを教えてくれる人が多いということで、入会を希望する人も多いのだそうだ。
下草は手入れをしてもすぐに生えてくるのだそうだ

活動を行うのは・・・

 「雑木林の中でその日1日動いた後の爽快感のため」、「家の庭木の手入れをする技術を学ぶために」、「機械類を動かしたい」、「植物に興味があるから」、「少しでも社会貢献がしたい」、「会員のみんなに会いにくるため」。会員の皆さんからお話を聞くと、きっかけや思いは十人十色であることがわかる。共通しているのはこの活動を義務と思ってやっていないことである。もちろん遊びでもない。自分自身のために南丘での活動を続けているのだ。「ボランティアは人のため、と言っているうちはまだ青いんです」と笹木さんは話す。自分自身が満足感を得ることが、結局は活動を長続きさせることに繋がっていくそうだ。団体としてもこの考えを大切にして、活動のノルマや目標は敢えて決めていない。ゆえに活動のペースは緩やかだが、皆さんの「楽しい」と思う心は続いている。

「緩やかだけど、成熟した団体」であること

 「一日活動した後に『楽しかった』と思ってもらう」、「一人一人の心を活動の第一に考える」、「その日に出来る範囲で少しずつ管理の手を入れていく」、「一人一人の技術の向上も後押しし、他の団体への協力も行っていく」。南丘が大事にしている考え方を笹木さんは「緩やかだけど成熟した団体でありたい」と表現している。
 南平丘陵公園は日野市の住宅街の中にある、過去の日野の宅地開発を免れた雑木林で、その面積は東京ドーム1つ弱に及ぶ(※1)。住宅街にこのような規模で隣接している身近な雑木林も、南丘が活動を始めなければ、そのまま放置されて近づきがたいものになっていたかもしれない。取材の最後に、笹木さんはこれからのこととして「私達の活動によって人が入れるような明るい健全な雑木林になれば良い」とお話してくださった。身近な緑はこうした形で人々に生かされ、また人々を生かしている。
※1 実際の公園の面積は約4.1 haで、東京ドームの建築面積は約4.7 haである。
活動に参加して-執筆担当:篠田 佳南(日本女子大学理学部) 取材に伺った際、笹木さんが活動場所の南平丘陵公園を案内してくださった。そこに向かう道中で浅川を渡ると、目の前を高い緑の丘が一面に広がっていた景色が印象的だった。日常では見慣れない東京の景色であった。
 参加させていただいた活動では、真竹の間伐作業を行った。会の方に丁寧に教えていただきながら、笹の根元を鋸で切る。切り終えて笹が倒れる迫力に驚いた。また、活動中、会員の方が草むらから蛙を捕まえて手に載せていた。その蛙を私の手にも載せていただいた。手の中でちょこまかと動くその様子が愛らしかった。
 1日活動を終えて、私自身も率直に今日1日楽しかったと、そう思った。笹木さんがお話されていたように、会員の皆さんが笑顔で答えてくださったように、緑の下で1日働くことは自らに充実感を与えてくれる。緑は人間と切っても切り離せないとよく言われるが、物質的な面だけでなく、精神的な面でも私達に恩恵をもたらしてくれるものではないだろうか。
 私は幼少期、住宅街で育ったが、自然と公園とが一体となったこのような場所が身近には無かった。ゆえに林の中で遊んだ経験に乏しい。自然のなかでしか出来ない経験・味わえない感覚は、そのような場所がないと知ることができない。笹木さんは南平丘陵公園のことを、「市の土地でも、南丘の土地でもない、市民みんなの土地」とお話してくださった。住宅街の中に緑があることで住民は気軽に緑の中で遊ぶことが出来る。だが緑がそこに在ることは住民に認識されても、素通りされてしまいがちだ。なぜなら普段の生活に緑は必要ではないからである。しかし、その緑が生かされれば、様々な点で私達に豊かさを与えてくれるであろう。
活動中、会員の方にお話しをうかがう