企業CSR・社会貢献活動

花王株式会社

花王は、「よきモノづくり」を通じて、豊かな生活文化の実現に貢献できることを使命としています。"よきモノ"をお届けする事業活動とともに、よき企業市民として、社会に貢献することを目的に社会貢献活動に取組んでいます。

特定非営利活動法人国分寺市にふるさとをつくる会

 「自分のふるさとはどこだろう」。みなさんは考えたことがあるだろうか。私自身、ふるさとと言われてすぐに思いつく場所はなかった。しかし、子どもの頃を振り返ってみると、思い出すのは森で作った秘密基地、公園でした缶けり…。自然の中で遊んだ記憶が多かった。ところが、都会では子どもたちが遊べる自然が少なくなってきているように感じる。そんな都会の自然を保全しようと活動しているのが「国分寺市にふるさとをつくる会」(以下ふるさとの会)である。

子どもたちにふるさとを

 ふるさとの会の活動場所は東京都国分寺市西恋ケ窪にある通称X山(エックス山)である。中央線西国分寺駅から歩いて10分。市街地に残された1.5haのこんもりとした緑地だ。8月中旬、アスファルトの強い照り返しに耐えながら、X山に一歩足を踏み入れると汗がすっと引く。パラパラとした夕立が止むと、呼び起こされたかのように突然ヒグラシが鳴き始める。
 2003年、X山では地権者の一部に相続税の負担が生じ、開発が危惧されていた。子どもたちの遊び場だったX山を守りたい、子どもたちの将来のためにふるさとと呼べるものを残したいと、ふるさとの会の代表である前島征武さんはX山保全に立ち上がった。この保全運動をきっかけにふるさとの会が発足した。その後、X山の敷地の大半が国分寺市の市有地となり、以来10年以上、子どもたちが思い出をつくれるような『森の自然塾』を行っている。

自然林は宝物

 ふるさとの会の特徴は、X山を「自然林」として保全していることである。自然林という言葉は聞きなれないかもしれない。前島さんたちの言う自然林とは多様な階層構造1)を持ち、マント群落2)などさまざまな種が存在する森のことだ。いろいろな環境があることで多くの生き物の住処や食べ物をつくることができる。
 「里山が素晴らしいって言われるけど、里山は人間が利用してこそ。都会の森には、極力手をいれない自然林が向いていると考えています。」と前島さんは語る。自然林の生態系は非常に多種多様である。生き物たちは密接な関係で存在しており、ムダなものは一つもない。そこに前島さんたちが自然林にこだわる理由がある。「いるもの」と「いらないもの」を現在の尺度で分けることは正しいのだろうか、ふるさとの会ではそう考える。だから、自然林として保全してくことに決めた。また、保全とは人が手を加えずに緑をそのまま残すことだと明確に意識しているため、森の管理は、雑草などは極力刈らず、枝や木も必要以上に切らない。この自然をどうするのか、その判断を未来の子どもたちに託すために、X山をこのまま見守ることを会の方針にしている。
力強い自然林の様子

自然林から伝えたいこと

 自然林の中で行われる活動は、自然本来のすばらしさを子どもたちに伝えることを目標にするものである。具体的には、月一回の大人向けの森の教室指導者養成講座と、週末に行われる冒険塾・探検塾などの『森の自然塾』活動である。指導者養成講座では森林の正しい知識や子どもたちへの伝え方などを学ぶことができる。『森の自然塾』では植物観察や、ネイチャーゲームなど幅広い活動を通じて、子どもたちの居場所作りや思い出作りを行っている。
 例えば、冒険塾で行われる『セミのぬけがら探し』では、子どもも大人も一緒になってセミのぬけがらを探す。このセミの名前は?とみんなで相談して先生と答え合わせ。いつのまにか、両手いっぱいのセミのぬけがらを抱えている。ぬけがらを探す場所は二ヶ所。ふるさとの会が自然林として保全しているエリアと、安全のために下刈りが行われたエリアだ。どちらが多くのぬけがらがみつかるだろうか。もちろん自然林である。一見すると下刈りが行われた場所は綺麗で気持ちがいい。しかし多くのセミが暮らしているのは雑然としたヤブの繁る自然林のほうである。「活動を通じて、自然林の良さを知って欲しいのです」と、ふるさとの会では自然の楽しさだけでなく、自然についての知識を伝える努力もしている。
「このぬけがらはアブラゼミかな?」

思い出がふるさとをつくる

 「自然の中での活動は、思い出を作ることだ」。夕立のあとに聞いたヒグラシの大合唱。季節により移り変わる花たち。ヤブをかき分けセミのぬけがらを探した夏。このような思い出こそがふるさとにつながると、ふるさとの会では考えている。子どもたちに自然の中で命の尊さや共生していくことを学ぶ機会を与えつつ、子どもたちが将来、私のふるさとはここ!と言えるように都会に残された自然の中で思い出づくりを行っている。

1)森林では様々な高さの木が存在し、層をつくる。環境が豊かであるほど植生の高さは高くなり、多数の階層が発達することになる。
2) 森林の周囲に発達するつる植物や小低木の群落。森林内への風の吹き込みを防いだり、日光の直射による乾燥を防いだりして、森林内の環境を一定に保つ役割をもつ。
活動に参加して−執筆担当:金澤 悠花(東京農工大学大学院) 驚いたことが二つある。まず一つ目はふるさとの会で活動している方々が非常に広く深い知識を持っていることだ。森林に対する知識、管理保全に対する知識、指導方法に対する知識。指導者の方々がそれぞれ得意な分野で活動し、その知識をお互いに共有していることが非常に印象だった。会員の中で共有した知識を子どもたちに楽しそうに伝えている姿も多く見られた。
 もう一つは、このような都会で「ふるさと」を作る活動をしていることそのものへの驚きだった。私は実家が東京・埼玉ということもあり、田舎で過ごした経験がなかった。また、いまの住まいも引っ越したばかりで馴染みがなく、自分にはふるさとがないなと思っていた。しかし、前島さんの話を聞き、会の活動に参加したあと、昔を振り返ってみた。近くの山で木のブランコを作ったり、ザリガニをとったりと、なんと楽しい子ども時代だっただろう。すこし考えただけでも、いかに自然の中で遊んだ記憶が多いか思い知らされた。今の子どもたちにそういう遊び場がなくなってしまうことは、思っていたよりずっと重大なことなのだ。
 私のふるさと、未来の子どもたちのふるさと、都会のふるさと、田舎のふるさと。「ふるさと」にはいろいろな想いが詰まっている。みんなが自分の「ふるさと」を持てたらいいなと、活動を通じて強く思った。
前島さんにお話を聞く様子